森の中の海1

本屋で平積みになっている「森の中の海」という小説を買った。
学生時代に読みまくった宮本輝の小説だ。まだ、読み始めたばかりだが、
物語は主人公が阪神大震災に巻き込まれるところから始まる。
このような設定が選ばれたのも宮本輝の実体験によるものである。
当時宮本輝は神戸に住んでいて、ちょうどその時は仕事で金沢にいたそうだ。
家族は無事だったが、家や書斎は無茶苦茶になり、遠く離れた金沢から
家族の安否を心配し、ニュースで大火災と一向に進まない救援活動に歯軋りして
日本の政治を恨んだそうだ。当時日本は村山内閣でそれまで自衛隊に反対していた
社会党が政権を握っていた時代だ。当然自衛隊を総動員して事体を解決する実力は
なく、多くの人が生き埋めになったまま死んでいったことを痛烈に批判している。
宮本氏のエッセイで氏と阪神大震災の関係を知ったのだが、この小説でも
そのことが多く取り上げられている。
大震災当時、僕は大学受験を控えた高校生で、京都とそれほど離れていない
神戸の事なのに、テレビのニュースを見ながら、身近なことに感じていなかった。
もちろん、救援が遅かったのは政治が悪いなんて感じもしなかった。
親戚や友達で被災した人がいなかったこともあるが、神戸にボランティアに
行こうなどと考えなかったのは、高校生であった僕の世界はとても狭く、
同じ関西でどれほど大変なことが起きているか全く理解できていなかった
のだと今更ながらに恥かしく思う。あるいはそのとき大学生であったなら
違う行動に出られたかもしれないとも思うし、もしも神戸に行っていたのなら
今の僕とはちがう僕がいるかもしれないとも思う。
5000人以上が地震によってなくなったというのも今でも実感として沸かないし、
5000人の死という悲劇がどれほどの悲劇であるかは、今の自分でも
到底計り知ることの出来ない出来事だと思う。
次は東海大地震だと言われているこの頃、もし今住んでいる地域で
地震に巻き込まれたなら自分はどうなるのであろうかと真剣に考えてしまう。